きえん つれびと
奇縁の連人
飯島家は古くからこのあたりに住んでいて、陽一の祖父、寿一もやはりここのすぐ近くで生を受けた。
その寿一より三日ばかり早く産声をあげたのが、斜向いに住む増田家の安二郎だったという。
小さい頃からとにかく仲が良く、何をするにもふたり一緒だった。おっとりとした寿一と対照的に活発な安二郎はケンカなどしたこともなく、ふたりで遊び始めれば延々熱中し続けていたという。
昭和という元号にやっと耳が慣れてきたとある年、ふたりの間では探検あそびが流行っていた頃のことだ。
いつもは近所の神社の境内を、遺跡や未開の土地にみたてて遊ぶのだが、その日だけは早起きをして出かける予定を立てていた。
隣町にある、とある家を見に行くためだ。
近所のガキ大将がその家に住む女に、呪いの言葉のようなものを投げつけられた武勇伝は、界隈の子供たちの間では有名な話だった。
それを前々から羨ましく思っていた安二郎が、どうしても自分も行きたいと言って聞かないから、寿一も渋々ついていくことになったのだ。
ガキ大将の言うとおりに道筋を行くと、隣町のはずれにその家は建っていた。
呪いをかけてくるような女が住む家だ。寿一が想像していたのは、とても大きな洋館のようなものだったのだが、実際はこじんまりとした日本家屋で、しかも今にも倒れてしまいそうなものだった。
足音を忍ばせながら勝手に庭に入り込み、家屋に近づいて行く。心臓を破裂しそうなほど動悸させている寿一は、その家から何ともいえない好い香りが漂ってきていることに気付いた。
隙間風の酷そうな、壊れかけた窓からそっと家の中を覗き込む。と、すぐそこにいた女とばっちり目が合ってしまった。
高い鼻。ぼさぼさの獣の毛のような色の髪。黒い洋服の上に、更に黒くて古い着物を羽織りのように着ている。帯は締めていない。
彼女は笑って、めくばせをしながらふたりに向かって手招きをした。
寿一は冗談じゃないと思い立ち去ろうとしたのだが、安二郎はさっさと玄関の扉をあけて中へ入ってしまったから、慌てて後を追うほかなかった。
入ってみると、ごちゃごちゃと物の置かれた室内には、見たことのない文字の本や生活用具が並んでいて、冒険小説に出てくる外国帆船の航海室を連想させた。すると寿一は、さっきまでの恐怖はどこかへ消え、すっかり楽しい気分になってしまったのだ。
話をしてみれば、ガキ大将の言っていた呪いの言葉というのは、彼女の外国語訛りの日本語であることはすぐにわかった。
当時の外国人はどちらかというと偉人扱いされることが多かったのだが、彼女の独特の雰囲気は確かに外国のものというより異界のまじない師といった感じだ。
しかも彼女は数分後、彼らに本物の"呪い"をかけることとなる。
その寿一より三日ばかり早く産声をあげたのが、斜向いに住む増田家の安二郎だったという。
小さい頃からとにかく仲が良く、何をするにもふたり一緒だった。おっとりとした寿一と対照的に活発な安二郎はケンカなどしたこともなく、ふたりで遊び始めれば延々熱中し続けていたという。
昭和という元号にやっと耳が慣れてきたとある年、ふたりの間では探検あそびが流行っていた頃のことだ。
いつもは近所の神社の境内を、遺跡や未開の土地にみたてて遊ぶのだが、その日だけは早起きをして出かける予定を立てていた。
隣町にある、とある家を見に行くためだ。
近所のガキ大将がその家に住む女に、呪いの言葉のようなものを投げつけられた武勇伝は、界隈の子供たちの間では有名な話だった。
それを前々から羨ましく思っていた安二郎が、どうしても自分も行きたいと言って聞かないから、寿一も渋々ついていくことになったのだ。
ガキ大将の言うとおりに道筋を行くと、隣町のはずれにその家は建っていた。
呪いをかけてくるような女が住む家だ。寿一が想像していたのは、とても大きな洋館のようなものだったのだが、実際はこじんまりとした日本家屋で、しかも今にも倒れてしまいそうなものだった。
足音を忍ばせながら勝手に庭に入り込み、家屋に近づいて行く。心臓を破裂しそうなほど動悸させている寿一は、その家から何ともいえない好い香りが漂ってきていることに気付いた。
隙間風の酷そうな、壊れかけた窓からそっと家の中を覗き込む。と、すぐそこにいた女とばっちり目が合ってしまった。
高い鼻。ぼさぼさの獣の毛のような色の髪。黒い洋服の上に、更に黒くて古い着物を羽織りのように着ている。帯は締めていない。
彼女は笑って、めくばせをしながらふたりに向かって手招きをした。
寿一は冗談じゃないと思い立ち去ろうとしたのだが、安二郎はさっさと玄関の扉をあけて中へ入ってしまったから、慌てて後を追うほかなかった。
入ってみると、ごちゃごちゃと物の置かれた室内には、見たことのない文字の本や生活用具が並んでいて、冒険小説に出てくる外国帆船の航海室を連想させた。すると寿一は、さっきまでの恐怖はどこかへ消え、すっかり楽しい気分になってしまったのだ。
話をしてみれば、ガキ大将の言っていた呪いの言葉というのは、彼女の外国語訛りの日本語であることはすぐにわかった。
当時の外国人はどちらかというと偉人扱いされることが多かったのだが、彼女の独特の雰囲気は確かに外国のものというより異界のまじない師といった感じだ。
しかも彼女は数分後、彼らに本物の"呪い"をかけることとなる。
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きえん つれびと
奇縁の連人