きえん つれびと
奇縁の連人
三人はギャアギャア騒ぎながらも、何とか目的地へと辿り着いた。
「こっちよ」
駐車場に車を停めた後、建物の間を慣れた様子で歩き出した綾子の後をついていくと、いわゆるキャンバスといった開けた場所に出た。
(なんか、大学って感じだな)
東京という場所も大学という場所も、高耶にとっては未知の世界だ。
従来の高耶なら、自分のテリトリー外に足を踏み出す場合、必要以上に警戒して眼差しも自然ときつくなるものだったが、今は違う。
理由は自分でもわかっていた。
ふたりが一緒にいることで、自分の心持ちが違うらしい。
たぶん遠い昔、こうして連れ立って、いろんな場所を訪れたことがあったのだ。
脳も身体も知らないはずの感覚を、初めてじゃないと感じる自分が不思議でしょうがない。ここ最近、よく感じる感覚だ。
17年間の自分とは違うけれど、紛れもない自分なのだと感じる瞬間。そういうとき高耶は、今までに感じたことのなかった、自分に対する自信のような自負のようなものを抱く。
たぶんそれは、"高耶"の抱く、過去の自分とは違う、という優越感だけでなく、"景虎"の、リーダーとしての矜持なのではないだろうか。
"高耶"より全ての部分で優れているはずの"景虎"……。
"景虎"を受け入れてしまえば、自分は今よりずっと楽に生きて行けるのではないかと思ったりもする。
けれど、きっと今は居心地がいいからそう思うだけで、また人が傷つくような事件が起きれば"景虎"から逃げ出したくなる。
(……こんなこと考えてたら駄目なのに)
高耶とか景虎とかではなくて。
"オレ"は犠牲者を出さないことだけを考えるべきだ。
二度とあんなことが起きないように。
"高耶"であることからも、"景虎"であることからも逃げてはいけないのだと思う。
けれど……。
「高耶さん?」
いきなり直江に腕を掴まれた。
「どこにいくんですか」
「……へ?」
考え事をしていた間に、前にいたはずの綾子がいなくなっていた。
振り返ると既に通り過ぎた建物の角で、腕を組んで立つ綾子の姿が見える。
「なーにぼけっとしてんのよ!可愛い子でも見つけた!?」
「ちっ、ちげーよ!」
早足で綾子のところへ戻っていく高耶の横に、直江も苦笑いで並ぶ。
元の立ち位置に戻って再び歩き出したのだが、すれ違う学生が皆チラチラと直江に視線を送っていることに気が付いた。
高耶や綾子は学生にみえるだろうが、直江は明らかに部外者だ。
学校関係者に声でもかけられたらどうするのかと訊いたら、手段はいくらでもあるんですよ、と余裕の笑みが返ってきた。
「ここに友達がいるはずなんだけど……」
到着したのは学生食堂だった。
事前に食券を買い、カウンターで商品を受け取る形式で、広い食堂内はかなりにぎわっている。
「あ、いたいた!みっちゃ~ん」
綾子は目ざとくお目当ての人物を発見して、ふたりを置いてさっさとテーブルの合間を縫い始めた。
やれやれ、と直江がため息をついていると、
「や、やすい……」
高耶が心なしか潤んだ瞳で食堂のメニューを見つめている。
「安いよ、直江……」
「ええ、学食ですから」
「すげえな、学食……」
感嘆のため息をもらす高耶に直江は言った。
「食べていきますか?」
「え、いーの?」
「ええ。何がいいですか」
「いーって。これくらい自分で払える」
高耶はポケットから財布を出すと、いそいそと食券を買いに向かった。
直江はあたりを見回して、空いた席を確保する。
「やっぱA定じゃなくてB定にした」
かつてないほどの晴れやかな笑顔でメニューを報告してくれる高耶を席に座らせて、直江も正面に座った。
「こっちよ」
駐車場に車を停めた後、建物の間を慣れた様子で歩き出した綾子の後をついていくと、いわゆるキャンバスといった開けた場所に出た。
(なんか、大学って感じだな)
東京という場所も大学という場所も、高耶にとっては未知の世界だ。
従来の高耶なら、自分のテリトリー外に足を踏み出す場合、必要以上に警戒して眼差しも自然ときつくなるものだったが、今は違う。
理由は自分でもわかっていた。
ふたりが一緒にいることで、自分の心持ちが違うらしい。
たぶん遠い昔、こうして連れ立って、いろんな場所を訪れたことがあったのだ。
脳も身体も知らないはずの感覚を、初めてじゃないと感じる自分が不思議でしょうがない。ここ最近、よく感じる感覚だ。
17年間の自分とは違うけれど、紛れもない自分なのだと感じる瞬間。そういうとき高耶は、今までに感じたことのなかった、自分に対する自信のような自負のようなものを抱く。
たぶんそれは、"高耶"の抱く、過去の自分とは違う、という優越感だけでなく、"景虎"の、リーダーとしての矜持なのではないだろうか。
"高耶"より全ての部分で優れているはずの"景虎"……。
"景虎"を受け入れてしまえば、自分は今よりずっと楽に生きて行けるのではないかと思ったりもする。
けれど、きっと今は居心地がいいからそう思うだけで、また人が傷つくような事件が起きれば"景虎"から逃げ出したくなる。
(……こんなこと考えてたら駄目なのに)
高耶とか景虎とかではなくて。
"オレ"は犠牲者を出さないことだけを考えるべきだ。
二度とあんなことが起きないように。
"高耶"であることからも、"景虎"であることからも逃げてはいけないのだと思う。
けれど……。
「高耶さん?」
いきなり直江に腕を掴まれた。
「どこにいくんですか」
「……へ?」
考え事をしていた間に、前にいたはずの綾子がいなくなっていた。
振り返ると既に通り過ぎた建物の角で、腕を組んで立つ綾子の姿が見える。
「なーにぼけっとしてんのよ!可愛い子でも見つけた!?」
「ちっ、ちげーよ!」
早足で綾子のところへ戻っていく高耶の横に、直江も苦笑いで並ぶ。
元の立ち位置に戻って再び歩き出したのだが、すれ違う学生が皆チラチラと直江に視線を送っていることに気が付いた。
高耶や綾子は学生にみえるだろうが、直江は明らかに部外者だ。
学校関係者に声でもかけられたらどうするのかと訊いたら、手段はいくらでもあるんですよ、と余裕の笑みが返ってきた。
「ここに友達がいるはずなんだけど……」
到着したのは学生食堂だった。
事前に食券を買い、カウンターで商品を受け取る形式で、広い食堂内はかなりにぎわっている。
「あ、いたいた!みっちゃ~ん」
綾子は目ざとくお目当ての人物を発見して、ふたりを置いてさっさとテーブルの合間を縫い始めた。
やれやれ、と直江がため息をついていると、
「や、やすい……」
高耶が心なしか潤んだ瞳で食堂のメニューを見つめている。
「安いよ、直江……」
「ええ、学食ですから」
「すげえな、学食……」
感嘆のため息をもらす高耶に直江は言った。
「食べていきますか?」
「え、いーの?」
「ええ。何がいいですか」
「いーって。これくらい自分で払える」
高耶はポケットから財布を出すと、いそいそと食券を買いに向かった。
直江はあたりを見回して、空いた席を確保する。
「やっぱA定じゃなくてB定にした」
かつてないほどの晴れやかな笑顔でメニューを報告してくれる高耶を席に座らせて、直江も正面に座った。
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きえん つれびと
奇縁の連人