きえん つれびと
奇縁の連人
早速ゲットした学食に微笑みかける高耶の前で、直江の方がなんだか嬉しくなる。
「東京まで来たかいあったよなー」
まずは味噌汁に口をつけて、その味に頷く様子を眺めた。
意外と言っては失礼だが、高耶は箸遣いがとても綺麗だ。そんな手元を見つめながら、直江は気になっていたことを口にした。
「そういえば、気付いていましたか」
「何が?」
「私達のあとを怪しいバイクが一台追って来ていたでしょう?」
「……さあ、全然気が付かなかった。つけられてたってことか?」
直江は先刻出会った憑依霊の話をした。
あのパン屋を出てしばらくしてから尾行に気付いたのだが、車種からいって間違いなくあの憑依霊だろうと思う。
「何でつけたりすんだよ?」
「さあ……」
向こうからは何も語りはしなかったし、こちらの身元を問うような発言もなかった。
まったく正体が掴めないが、何か意図があってあそこにいたのは間違いない。
ただ、霊齢は五十年以上はあるように思うと後で綾子が言っていたから、"現代"霊ではない。言うならば近代霊だ。となると疑問なのは、バイクに乗れるということか。五十年以上前ともなると現代ほどバイクは大衆化していなかったと思うのだが。交通事情だってまるで違う。憑依後、バイクに乗る訓練をし、交通法規を覚えたのだろうか。
「闇戦国とは関係なさそうですが、協力者や仲間がいるかもしれません。もし単独での行動ならば、憑巫が霊に協力している可能性もありますね」
「そんなこと、有り得んの?」
「稀にいるんですよ。自分に憑依した霊と協力関係になってしまう憑坐が」
「へえ……。まあ、憑かれる側がオッケーなら別にいーんじゃね」
「それは状況にもよりますが……大抵の場合、犯罪者なんですよ」
霊力という特殊な力は何よりもまず悪事を働くのにとても便利だ。
「それにいざ、憑巫が霊を追い出したくなったところで、どうしようもないですからね。出て行け、と言って素直に聞く訳もありませんし。最終的には霊が主導権を握ってしまうパターンが多いんですよ」
ふうん、と言ってから、高耶はキュウリの浅漬けを口へ運んだ。
パリパリとした気持ちのいい音を聞きながら、直江は不意に話題を変えたくなった。
「さっき、何を考えていたんですか?」
「へ?」
「ここへ歩いてくる途中、考え事をしていたんでしょう?それともまさか、本当に好みの女性でも見つけたんですか?」
「……違えって」
高耶は軽く直江を睨み付けてから、視線を皿の上のおいしそうなから揚げに移した。
───景虎様!!
高耶の脳裏に蘇ったのは仙台での直江の姿だ。
悲痛な表情と抱擁。
あの行動の意味を高耶はずっと考えあぐねていた。
(お前はオレにどうなって欲しいんだ?)
自分に"景虎"を取り戻して欲しくない?
そんな訳はないと思うのだが、何故かそんな気がする。
直江がこのままでいいと言うのなら、このままでもいいとも思う。
(違う。オレは直江のせいにしてる)
本当は高耶自身がこの関係を壊したくないと思っているのだ。
でも自分が変わらなければ、また誰かを護りきれないことがあるかもしれない。
高耶は泳がせていた視線を直江に戻した。
直江も高耶をまっすぐに見つめている。
考えたことをそのままを話す訳にはいかなくて、また眼を泳がせた。
「なんで霊って憑依すんのかな?」
「……憑依、ですか?」
質問への答えともはぐらかしともつかない言葉を聞いて直江は怪訝な顔をした。
「霊体のほうが便利そうなのに。壁だってすりぬけられるし空だって飛べるし。あ、でも交通事故にあったら死体が見えなくて困るんだよな」
「それは透明人間の映画か何かと混同していませんか……。そもそも霊が交通事故に遭う訳ないでしょう」
何も言い返さない高耶の様子をみて、心情を察したらしい直江は、静かに喋り始めた。
「まあ逆説的になりますが、憑依の最大のメリットは肉体を持つこと、でしょうね」
「東京まで来たかいあったよなー」
まずは味噌汁に口をつけて、その味に頷く様子を眺めた。
意外と言っては失礼だが、高耶は箸遣いがとても綺麗だ。そんな手元を見つめながら、直江は気になっていたことを口にした。
「そういえば、気付いていましたか」
「何が?」
「私達のあとを怪しいバイクが一台追って来ていたでしょう?」
「……さあ、全然気が付かなかった。つけられてたってことか?」
直江は先刻出会った憑依霊の話をした。
あのパン屋を出てしばらくしてから尾行に気付いたのだが、車種からいって間違いなくあの憑依霊だろうと思う。
「何でつけたりすんだよ?」
「さあ……」
向こうからは何も語りはしなかったし、こちらの身元を問うような発言もなかった。
まったく正体が掴めないが、何か意図があってあそこにいたのは間違いない。
ただ、霊齢は五十年以上はあるように思うと後で綾子が言っていたから、"現代"霊ではない。言うならば近代霊だ。となると疑問なのは、バイクに乗れるということか。五十年以上前ともなると現代ほどバイクは大衆化していなかったと思うのだが。交通事情だってまるで違う。憑依後、バイクに乗る訓練をし、交通法規を覚えたのだろうか。
「闇戦国とは関係なさそうですが、協力者や仲間がいるかもしれません。もし単独での行動ならば、憑巫が霊に協力している可能性もありますね」
「そんなこと、有り得んの?」
「稀にいるんですよ。自分に憑依した霊と協力関係になってしまう憑坐が」
「へえ……。まあ、憑かれる側がオッケーなら別にいーんじゃね」
「それは状況にもよりますが……大抵の場合、犯罪者なんですよ」
霊力という特殊な力は何よりもまず悪事を働くのにとても便利だ。
「それにいざ、憑巫が霊を追い出したくなったところで、どうしようもないですからね。出て行け、と言って素直に聞く訳もありませんし。最終的には霊が主導権を握ってしまうパターンが多いんですよ」
ふうん、と言ってから、高耶はキュウリの浅漬けを口へ運んだ。
パリパリとした気持ちのいい音を聞きながら、直江は不意に話題を変えたくなった。
「さっき、何を考えていたんですか?」
「へ?」
「ここへ歩いてくる途中、考え事をしていたんでしょう?それともまさか、本当に好みの女性でも見つけたんですか?」
「……違えって」
高耶は軽く直江を睨み付けてから、視線を皿の上のおいしそうなから揚げに移した。
───景虎様!!
高耶の脳裏に蘇ったのは仙台での直江の姿だ。
悲痛な表情と抱擁。
あの行動の意味を高耶はずっと考えあぐねていた。
(お前はオレにどうなって欲しいんだ?)
自分に"景虎"を取り戻して欲しくない?
そんな訳はないと思うのだが、何故かそんな気がする。
直江がこのままでいいと言うのなら、このままでもいいとも思う。
(違う。オレは直江のせいにしてる)
本当は高耶自身がこの関係を壊したくないと思っているのだ。
でも自分が変わらなければ、また誰かを護りきれないことがあるかもしれない。
高耶は泳がせていた視線を直江に戻した。
直江も高耶をまっすぐに見つめている。
考えたことをそのままを話す訳にはいかなくて、また眼を泳がせた。
「なんで霊って憑依すんのかな?」
「……憑依、ですか?」
質問への答えともはぐらかしともつかない言葉を聞いて直江は怪訝な顔をした。
「霊体のほうが便利そうなのに。壁だってすりぬけられるし空だって飛べるし。あ、でも交通事故にあったら死体が見えなくて困るんだよな」
「それは透明人間の映画か何かと混同していませんか……。そもそも霊が交通事故に遭う訳ないでしょう」
何も言い返さない高耶の様子をみて、心情を察したらしい直江は、静かに喋り始めた。
「まあ逆説的になりますが、憑依の最大のメリットは肉体を持つこと、でしょうね」
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きえん つれびと
奇縁の連人