きえん つれびと
奇縁の連人
待ち合わせた場所に車を停めてふたりで立っていると、高耶は半袖シャツにジーンズ姿で現れた。
「景虎~~~♪」
綾子のテンションの高さのせいか、その変わった名前のせいか、まばらにいた通行人がいっせいに注目する。
「やめろよな、でっけー声で呼ぶの」
声を潜めて寄ってきた高耶は、額が汗ばんでいる。
「やっぱ東京はあっちーな」
地元と同じ感覚で少し生地の厚いシャツを着てきてしまったのが、失敗だった。
手でパタパタと顔を仰ぐ。
対する綾子は七分丈のスキニーパンツにタンクトップで涼しげだ。
直江の方は上着こそ脱いではいるものの、Yシャツのボタンもきっちり上までとめて平然としていた。
「そりゃあ松本に比べればね。ほら、車ん中入ろ。冷房、当たろ」
そこで初めて見慣れぬ車に気付いたらしい。
「なに、この車」
いちいち聞いてくる高耶がうらめしい。
「レンタカーなんです」
「んなもん借りなくったって、おまえんちは高級車がごろごろしてんだろ?」
「ごろごろはしてませんけどね」
実は、あまり知られたくない事情があった。
また廃車にされてはたまらないからという理由で、家族からの使用許可が下りなかったのだ。
レンタカーならさすがの弟も自粛するだろうということで、長兄の了承を得られた。
母親などは直江が運転すること自体を嫌がっており、免許証を預けろといわれて閉口している。
新車の購入が遅れているのも、そんな事情が絡んでいた。
が、できればそんな話はしたくない。
そこへ綾子から意図せぬ助け舟が出された。
「それより景虎、自由が丘くんだりまで何しにいくのよ」
綾子はさっきからそれが気になっていたようだ。確かに高耶と自由が丘の繋がりなどピンとこない。
「美弥がコレを欲しがっててさ。電話したら自由が丘にしかないってゆーから」
高耶がポケットから出してきたのは雑誌の切り抜きだった。そこには淡い色のワンピースを着たモデルがポーズをきめている。美弥の雰囲気に合いそうなかわいらしいものだった。
「今月ちょっと給料良かったからさ。誕生日だってロクなもんあげたことねーし、たまにはいーかと思って」
給料を自分の趣味だけでなく妹にも注ぎ込むあたり、高耶の兄バカっぷりが伺える気がする。
「あれ、この店!たまに行くよ?」
切り抜きの隅にメモされた店の名前を読み上げながら綾子が声をあげた。
横浜に住む綾子は自由が丘も活動範囲内に入るらしい。
「何なら一緒に行ってあげようか?」
「まじ?」
やはり男一人で行くには不安があったのだろう。高耶は露骨に嬉しそうな顔をした。
「約束があるんじゃなかったのか?」
直江の方は迷惑そうな表情を浮かべている。
さっさと綾子を送り届けた後、自分が高耶の買い物に付き合って、ついでに夕飯でも一緒に……と勝手に計画を立てていたところだったからだ。
「そうだった。じゃあ、景虎にも視てもらおうかな」
「ばっ、馬鹿なことを言うな!」
即座に直江が反発したが、今までのお返しとばかりに綾子は無視を決め込む。
「ぴっちぴちの女子大生がタチの悪い怨霊で困ってんのよ。ね、景虎も助けてあげたいでしょう?」
「お、おう」
直江が顔を引き攣らせる横で、高耶は強引に頷かされた。
「ね、直江、景虎が来るんならあんたも一緒に来るわよね?」
先程、自由が丘まで送ると約束した直江だ。途中放棄するつもりはない。
「……仕方ないな」
直江は納得するしかなかった。
綾子は密かにほくそ笑む。
高耶を巻き込む形で、当面の移動手段を確保出来たことになるからだ。
「景虎~~~♪」
綾子のテンションの高さのせいか、その変わった名前のせいか、まばらにいた通行人がいっせいに注目する。
「やめろよな、でっけー声で呼ぶの」
声を潜めて寄ってきた高耶は、額が汗ばんでいる。
「やっぱ東京はあっちーな」
地元と同じ感覚で少し生地の厚いシャツを着てきてしまったのが、失敗だった。
手でパタパタと顔を仰ぐ。
対する綾子は七分丈のスキニーパンツにタンクトップで涼しげだ。
直江の方は上着こそ脱いではいるものの、Yシャツのボタンもきっちり上までとめて平然としていた。
「そりゃあ松本に比べればね。ほら、車ん中入ろ。冷房、当たろ」
そこで初めて見慣れぬ車に気付いたらしい。
「なに、この車」
いちいち聞いてくる高耶がうらめしい。
「レンタカーなんです」
「んなもん借りなくったって、おまえんちは高級車がごろごろしてんだろ?」
「ごろごろはしてませんけどね」
実は、あまり知られたくない事情があった。
また廃車にされてはたまらないからという理由で、家族からの使用許可が下りなかったのだ。
レンタカーならさすがの弟も自粛するだろうということで、長兄の了承を得られた。
母親などは直江が運転すること自体を嫌がっており、免許証を預けろといわれて閉口している。
新車の購入が遅れているのも、そんな事情が絡んでいた。
が、できればそんな話はしたくない。
そこへ綾子から意図せぬ助け舟が出された。
「それより景虎、自由が丘くんだりまで何しにいくのよ」
綾子はさっきからそれが気になっていたようだ。確かに高耶と自由が丘の繋がりなどピンとこない。
「美弥がコレを欲しがっててさ。電話したら自由が丘にしかないってゆーから」
高耶がポケットから出してきたのは雑誌の切り抜きだった。そこには淡い色のワンピースを着たモデルがポーズをきめている。美弥の雰囲気に合いそうなかわいらしいものだった。
「今月ちょっと給料良かったからさ。誕生日だってロクなもんあげたことねーし、たまにはいーかと思って」
給料を自分の趣味だけでなく妹にも注ぎ込むあたり、高耶の兄バカっぷりが伺える気がする。
「あれ、この店!たまに行くよ?」
切り抜きの隅にメモされた店の名前を読み上げながら綾子が声をあげた。
横浜に住む綾子は自由が丘も活動範囲内に入るらしい。
「何なら一緒に行ってあげようか?」
「まじ?」
やはり男一人で行くには不安があったのだろう。高耶は露骨に嬉しそうな顔をした。
「約束があるんじゃなかったのか?」
直江の方は迷惑そうな表情を浮かべている。
さっさと綾子を送り届けた後、自分が高耶の買い物に付き合って、ついでに夕飯でも一緒に……と勝手に計画を立てていたところだったからだ。
「そうだった。じゃあ、景虎にも視てもらおうかな」
「ばっ、馬鹿なことを言うな!」
即座に直江が反発したが、今までのお返しとばかりに綾子は無視を決め込む。
「ぴっちぴちの女子大生がタチの悪い怨霊で困ってんのよ。ね、景虎も助けてあげたいでしょう?」
「お、おう」
直江が顔を引き攣らせる横で、高耶は強引に頷かされた。
「ね、直江、景虎が来るんならあんたも一緒に来るわよね?」
先程、自由が丘まで送ると約束した直江だ。途中放棄するつもりはない。
「……仕方ないな」
直江は納得するしかなかった。
綾子は密かにほくそ笑む。
高耶を巻き込む形で、当面の移動手段を確保出来たことになるからだ。
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きえん つれびと
奇縁の連人