きえん つれびと
奇縁の連人
「つまり、帰る場所があったはずなのに、どこだかわからないと」
事情を聞き出してみるとそういうことらしい。
「自分の名前すら覚えていなくて」
「冴えない話……」
一週間程前に高塚と出会ったとき、この霊は迷子になっていたらしい。
よくよく霊査してみると、邪気どころか守護霊に近い霊波を持っているから、どこかで何かを護っていた霊なのではないだろうか。
「この高塚さんって方はとてもいい人で。自分の身体を貸してやるから戻るべき場所を探してみろって」
綾子は、
「そんなまさか!高塚くんってばすっごく怖がりで、霊とみると逃げまわってるような人なのよ!」
正直に言いなさい!と綾子はベテラン刑事のように机を叩いた。
「本当です!すごく親身になって話を聞いてくれて!まあ、そうとう酔われているようでしたけど……」
悲鳴に近い声で霊が反論する。
酔った勢いで霊に身体を貸してやる人物とは……。
「お前と気が合う訳だ」
直江がため息をつきながら言った。
綾子はどういう意味よ、といいながら更に霊を問い詰める。
「それなのにのんきに陶芸なんかやってたの?」
「この土をこねる感触が気に入って……」
みれば練り終わった土ばかりが並んでいる。
「これをやっていると、何かを思い出せそうな気がして」
それでここ数日間、ずっと作陶室にこもっているそうだ。
「つくづく冴えないわ……」
霊齢は若い。十数年程度だろうか。
「どうしても帰らなきゃ、って思うんです。でも、それがどこだかわからなくて……っ」
苦しげな声で言う。初めて表情らしい表情を浮かべた。ぼんやりはしていても彼なりに焦りはあるらしい。
とりあえず、三人は部屋の隅に移って作戦を練った。
「《調伏》はできないわよねえ」
「そうだな」
迷子の守護霊などあまり聞いたことがない。
でも放っておいたら、高塚は一生憑依されたままだ。
「どーすんだよ」
「記憶がないというのなら退行催眠という手もありますが」
長秀だけでなく、直江や綾子も暗示を使えない訳ではないが、得体の知れない霊だし、何が起こるかわからない。下手に手を出したくない。
他にもいくつか方法を挙げる直江の話を聞いていて、綾子はだんだん面倒くさいといった表情になってきた。
「ま、高塚くんなら1、2ヶ月憑かれてたってへたるような人じゃないし、自分で思い出すのを気長に待ってみましょ。私も元の居場所を探す手伝いくらいならしてあげたっていいわよ」
「どうやって?」
「覚えてることを手がかりにしてなんとか……?」
うさんくさそうな顔で聞いていた高耶が、急に無言になって手をかざし、綾子を制した。
入り口の方を見ている。
「誰かいる」
直江も同じ方へ視線を向けていた。
「ええ。どうやら尾けられていたようですね」
少し高耶を庇うようにして立つ。
「いい加減出てきたらどうだ」
声をかけると、数秒して若い男が現れた。見覚えのある人物だ。
「お前は……」
パン屋でみかけた憑依霊が、そこに立っていた。
「君達は、何者なんだ?幽霊相手に、一体何をしている?」
話を全て聞かれていたらしい。先程は急に向けた警戒心に思わず逃げ出してしまっただけだったのだろう。今のやりとりを聞いて、直江たちがどういうつもりなのか、察しがついたようだ。
「俺たちはこの世に残ってしまった霊たちの助けになりたいと思っている者だ。君も何かがあって他人の身体に取り憑いているんだろう?何なら事情を話してみたらどうだ」
暫く迷っていたその霊は、直江の眼を睨み付けながら口を開いた。
「復讐がしたいんだ。手伝って欲しい」
その声には、深い憎しみが込められていた。
事情を聞き出してみるとそういうことらしい。
「自分の名前すら覚えていなくて」
「冴えない話……」
一週間程前に高塚と出会ったとき、この霊は迷子になっていたらしい。
よくよく霊査してみると、邪気どころか守護霊に近い霊波を持っているから、どこかで何かを護っていた霊なのではないだろうか。
「この高塚さんって方はとてもいい人で。自分の身体を貸してやるから戻るべき場所を探してみろって」
綾子は、
「そんなまさか!高塚くんってばすっごく怖がりで、霊とみると逃げまわってるような人なのよ!」
正直に言いなさい!と綾子はベテラン刑事のように机を叩いた。
「本当です!すごく親身になって話を聞いてくれて!まあ、そうとう酔われているようでしたけど……」
悲鳴に近い声で霊が反論する。
酔った勢いで霊に身体を貸してやる人物とは……。
「お前と気が合う訳だ」
直江がため息をつきながら言った。
綾子はどういう意味よ、といいながら更に霊を問い詰める。
「それなのにのんきに陶芸なんかやってたの?」
「この土をこねる感触が気に入って……」
みれば練り終わった土ばかりが並んでいる。
「これをやっていると、何かを思い出せそうな気がして」
それでここ数日間、ずっと作陶室にこもっているそうだ。
「つくづく冴えないわ……」
霊齢は若い。十数年程度だろうか。
「どうしても帰らなきゃ、って思うんです。でも、それがどこだかわからなくて……っ」
苦しげな声で言う。初めて表情らしい表情を浮かべた。ぼんやりはしていても彼なりに焦りはあるらしい。
とりあえず、三人は部屋の隅に移って作戦を練った。
「《調伏》はできないわよねえ」
「そうだな」
迷子の守護霊などあまり聞いたことがない。
でも放っておいたら、高塚は一生憑依されたままだ。
「どーすんだよ」
「記憶がないというのなら退行催眠という手もありますが」
長秀だけでなく、直江や綾子も暗示を使えない訳ではないが、得体の知れない霊だし、何が起こるかわからない。下手に手を出したくない。
他にもいくつか方法を挙げる直江の話を聞いていて、綾子はだんだん面倒くさいといった表情になってきた。
「ま、高塚くんなら1、2ヶ月憑かれてたってへたるような人じゃないし、自分で思い出すのを気長に待ってみましょ。私も元の居場所を探す手伝いくらいならしてあげたっていいわよ」
「どうやって?」
「覚えてることを手がかりにしてなんとか……?」
うさんくさそうな顔で聞いていた高耶が、急に無言になって手をかざし、綾子を制した。
入り口の方を見ている。
「誰かいる」
直江も同じ方へ視線を向けていた。
「ええ。どうやら尾けられていたようですね」
少し高耶を庇うようにして立つ。
「いい加減出てきたらどうだ」
声をかけると、数秒して若い男が現れた。見覚えのある人物だ。
「お前は……」
パン屋でみかけた憑依霊が、そこに立っていた。
「君達は、何者なんだ?幽霊相手に、一体何をしている?」
話を全て聞かれていたらしい。先程は急に向けた警戒心に思わず逃げ出してしまっただけだったのだろう。今のやりとりを聞いて、直江たちがどういうつもりなのか、察しがついたようだ。
「俺たちはこの世に残ってしまった霊たちの助けになりたいと思っている者だ。君も何かがあって他人の身体に取り憑いているんだろう?何なら事情を話してみたらどうだ」
暫く迷っていたその霊は、直江の眼を睨み付けながら口を開いた。
「復讐がしたいんだ。手伝って欲しい」
その声には、深い憎しみが込められていた。
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きえん つれびと
奇縁の連人