きえん つれびと
奇縁の連人
山形で派手に吹っ飛んだのは、愛車だけではなかった。
便利だった携帯電話も同じ運命を辿ったのである。
油断していたつもりはない直江だが、それでも悔やまれてならない。
新車の方は現在、車種を何にするのか毎晩のように家族会議が開かれていが、ケイタイは母親に言われた照弘が疾風の如く調達してきた。気が付くとどこにいるか分からなくなる橘家の三男坊には、絶対に持たせておかなければならないアイテムなのである。
社用だぞ、と念を押されて渡されたものの、あっという間に埋まってしまった電話帳の8割方は不動産業とは無関係の女性のものだ。別に全ての女性と関係を結んだ訳ではない。ただ何故か番号ばかりが増えていく。不思議なものだが、ここらへんに照弘から"たらし"のレッテルを貼られている原因がありそうだ。
直江がのんきにそんな事を考えていると、当の携帯電話が鳴り始めた。
ピピピピピッ ピピピピピッ ピピピピピッ
耳につく着信音を煩く思いながら通話ボタンを押すと、電話帳にも登録のある、(一応)女性の声が聞こえてきた。
『あ、直江~?!やっほ~、げんきっ?!』
今日も綾子は元気がよい。
「何かあったのか」
『ん~、ちょっとね~。今、へいき?』
とにかく声が大きい。受話口から心持ち耳を離した。
直江は本日、家の使いで東京へ来ている。
朝っぱらから父親や長兄に頼まれていた用事を済ませたり、母に頼まれていた買い物をしたり、都内に住む姉のところへ顔を出したりで用は全て済んでしまったのだが、せっかくの日曜だからこのまま真っ直ぐ帰ろうとも思えずにいたところだったのだ。
だからと言って綾子のおしゃべりに付き合うのも気が引けたが、すでに綾子は勝手に喋り始めている。
『やっぱケイタイって便利よね。私も買おうかなあ』
「電話代が高いからどうのこうのと言ってただろう」
『そうだけど、家に掛かってくる電話が宇都宮の坊主とか松本の高校生とか脈絡がないもんだから、さすがにうちの親も不審に思ってるみたいなのよね』
綾子の家は横浜にあり、まあまあいいとこのお嬢さんなのである。
『大体知ってる?こないだあんたと連絡が取れないからって、あんたのお母さんからうちに電話きたらしいのよ!ケイタイ持てば、あんたのお母さんも私の方に直接かけてくれるだろうし』
「ちょっと待て。なんで母がお前の家の番号を知ってるんだ」
『だって何回も折り返し頼んでるもの。あんたの家族に、すっかり誤解されちゃってるのよ、私。冗談じゃないわよね』
こちらこそ冗談ではない、と思ったが、最近綾子が家に電話をかけてくる際に偽名なのはそのせいか、と納得がいった。
『お母さんからは一度家に遊びに来いって誘われてるし、上のお兄さんなんて、弟はひどい男だからあまり真剣になっちゃ駄目だって本気で説得されたし。よっぽどこっちから願い下げよ、って言ってやろうかと思ったわよ』
あの人たちは自分のいないところで何をしているんだ、と頭が痛くなってくる。何故か最近、過保護に拍車がかかっていると思うのは気のせいだろうか。
『ね、ところで今どこよ』
「東京だ」
『あっそ。──……って、もしかして、お姉さんのところに寄ってた?』
「ああ」
『ってことは目黒のあたりねッ!!今何時ッ!?』
「??もうすぐ11時半、だな」
腕時計を見ながら、昼時だなと呟く直江に、綾子は怒鳴りつけた。
『大変!急いでいまから言うところに行って!!』
「何でだ」
『いいから!行列があるからそこに並んでて!いい、住所はね……』
言われた通りに住所をメモし、訳も分からずに車を急発進させた。
便利だった携帯電話も同じ運命を辿ったのである。
油断していたつもりはない直江だが、それでも悔やまれてならない。
新車の方は現在、車種を何にするのか毎晩のように家族会議が開かれていが、ケイタイは母親に言われた照弘が疾風の如く調達してきた。気が付くとどこにいるか分からなくなる橘家の三男坊には、絶対に持たせておかなければならないアイテムなのである。
社用だぞ、と念を押されて渡されたものの、あっという間に埋まってしまった電話帳の8割方は不動産業とは無関係の女性のものだ。別に全ての女性と関係を結んだ訳ではない。ただ何故か番号ばかりが増えていく。不思議なものだが、ここらへんに照弘から"たらし"のレッテルを貼られている原因がありそうだ。
直江がのんきにそんな事を考えていると、当の携帯電話が鳴り始めた。
ピピピピピッ ピピピピピッ ピピピピピッ
耳につく着信音を煩く思いながら通話ボタンを押すと、電話帳にも登録のある、(一応)女性の声が聞こえてきた。
『あ、直江~?!やっほ~、げんきっ?!』
今日も綾子は元気がよい。
「何かあったのか」
『ん~、ちょっとね~。今、へいき?』
とにかく声が大きい。受話口から心持ち耳を離した。
直江は本日、家の使いで東京へ来ている。
朝っぱらから父親や長兄に頼まれていた用事を済ませたり、母に頼まれていた買い物をしたり、都内に住む姉のところへ顔を出したりで用は全て済んでしまったのだが、せっかくの日曜だからこのまま真っ直ぐ帰ろうとも思えずにいたところだったのだ。
だからと言って綾子のおしゃべりに付き合うのも気が引けたが、すでに綾子は勝手に喋り始めている。
『やっぱケイタイって便利よね。私も買おうかなあ』
「電話代が高いからどうのこうのと言ってただろう」
『そうだけど、家に掛かってくる電話が宇都宮の坊主とか松本の高校生とか脈絡がないもんだから、さすがにうちの親も不審に思ってるみたいなのよね』
綾子の家は横浜にあり、まあまあいいとこのお嬢さんなのである。
『大体知ってる?こないだあんたと連絡が取れないからって、あんたのお母さんからうちに電話きたらしいのよ!ケイタイ持てば、あんたのお母さんも私の方に直接かけてくれるだろうし』
「ちょっと待て。なんで母がお前の家の番号を知ってるんだ」
『だって何回も折り返し頼んでるもの。あんたの家族に、すっかり誤解されちゃってるのよ、私。冗談じゃないわよね』
こちらこそ冗談ではない、と思ったが、最近綾子が家に電話をかけてくる際に偽名なのはそのせいか、と納得がいった。
『お母さんからは一度家に遊びに来いって誘われてるし、上のお兄さんなんて、弟はひどい男だからあまり真剣になっちゃ駄目だって本気で説得されたし。よっぽどこっちから願い下げよ、って言ってやろうかと思ったわよ』
あの人たちは自分のいないところで何をしているんだ、と頭が痛くなってくる。何故か最近、過保護に拍車がかかっていると思うのは気のせいだろうか。
『ね、ところで今どこよ』
「東京だ」
『あっそ。──……って、もしかして、お姉さんのところに寄ってた?』
「ああ」
『ってことは目黒のあたりねッ!!今何時ッ!?』
「??もうすぐ11時半、だな」
腕時計を見ながら、昼時だなと呟く直江に、綾子は怒鳴りつけた。
『大変!急いでいまから言うところに行って!!』
「何でだ」
『いいから!行列があるからそこに並んでて!いい、住所はね……』
言われた通りに住所をメモし、訳も分からずに車を急発進させた。
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きえん つれびと
奇縁の連人