きえん つれびと
奇縁の連人
"アンジュ"の近くにあるコインパーキングへ車を入れる頃になって、急に高塚の様子がおかしくなった。
なんだかそわそわとして落ち着かない。
「どうかしたの?」
隣に座っていた綾子が声をかけてもキョロキョロしている。
「なんだかここら辺に見覚えがある気がします……」
パーキングからは店の裏通りが見通せる。その辺りにはかなり年季の入った家々が立ち並び、風情ある下町の風景といった感じだ。
どこからか風鈴の音が聞こえてきて、目の前を猫が横切る。
「そういえば高塚くんちってこの近くだった気がするわ。近所の雰囲気が好きだからよく散歩するんだって言ってた」
ならばこの辺りを歩き回っていたとしてもおかしくはない。高塚は昭和の時代が大好きで、古家具なんかを集めたりもしているらしい。
「いいよな、こーゆーの」
高塚じゃなくとも、このなんとも懐かしい独特の雰囲気が嫌いな日本人などきっといない。
直江を振り仰いでみると、少し真面目な顔をしてこちらを見ていた。
なんだよ、と言おうとしたのに、ふっと視線を逸らされる。
「さ、とっとと行くわよ!もしかしたらタダで何か食べられるかもしれないわ!」
高耶の感じたわずかな違和感は、根拠のない期待に満ちた綾子の声にかき消されてしまった。
高塚には車で待っていてもいいと言ったのだが、ついてくるというので好きにさせることにして、一行は店へと向かって歩き出す。
すぐに店の裏口が見えてきた。
同時に香ばしいパンの香りが漂い始める。
綾子ではないけれど、高耶も少し空腹を感じ始めていた。
すぐ後ろを歩く高塚はやはり落ち着かない様子で、クンクンと周囲の匂いを嗅いでいる。
と、ちょうどそこへ店の裏口から、従業員らしき白衣の人物が出てくるのが見えた。
「あ!」
綾子が声を上げる。
「ナイスタイミング!私、ちょっと時間貰えないか聞いてくるわ!」
と言うなり走って行ってしまった。
どうやら、あの人物が店長のようだ。
近づくに連れてその容姿が明らかとなる。
(………ん?)
人の良さそうな顔立ちをしていた。日曜の公園にいるお父さんといった雰囲気だ。
三浦が言っていたという、極悪非道の人間にはとても見えなかった。
しかし、綾子の入れ込みようからものすごい美男子を想像していた高耶にしてみると、失礼な話だがなんだか拍子抜けしてしまった。
「ねーさんはああいうのが好みなのか」
「さあ……。晴家の好みについては考えてみたこともないですから……」
もしかしたら、"彼"に似ている部分があるのかもしれませんねと直江は言った。
それで思い出す。綾子には200年もの間、待ち続けている相手がいたはずなのだ。
(そっか……)
高耶は想像する。
年齢も性別も容姿もわからない相手を探すことの苦労の大きさを。
きっと人と出会う度、すれ違う度に、その人の面影がないか、どこか似ている部分はないか、と考えるのだ。
隣の男が自分と再会するまでの間、ずっとそうしてきたように。
「早く行きましょう。あいつに任せたままにしておくと、とんだ誤解をされそうですよ」
そう言われて店の方を見ると、綾子のあまりのテンションの高さに、店長がかなり不審な目になっている。
不利な状況を打開しようと直江が近づいていって声をかけた。
すぐに高耶も加わって、とりあえず話を聞いて欲しいと頼んでみる。
わいわいと騒ぐ一行の後ろで、高塚はひとり奇妙な顔で佇んでいる。
なんだかそわそわとして落ち着かない。
「どうかしたの?」
隣に座っていた綾子が声をかけてもキョロキョロしている。
「なんだかここら辺に見覚えがある気がします……」
パーキングからは店の裏通りが見通せる。その辺りにはかなり年季の入った家々が立ち並び、風情ある下町の風景といった感じだ。
どこからか風鈴の音が聞こえてきて、目の前を猫が横切る。
「そういえば高塚くんちってこの近くだった気がするわ。近所の雰囲気が好きだからよく散歩するんだって言ってた」
ならばこの辺りを歩き回っていたとしてもおかしくはない。高塚は昭和の時代が大好きで、古家具なんかを集めたりもしているらしい。
「いいよな、こーゆーの」
高塚じゃなくとも、このなんとも懐かしい独特の雰囲気が嫌いな日本人などきっといない。
直江を振り仰いでみると、少し真面目な顔をしてこちらを見ていた。
なんだよ、と言おうとしたのに、ふっと視線を逸らされる。
「さ、とっとと行くわよ!もしかしたらタダで何か食べられるかもしれないわ!」
高耶の感じたわずかな違和感は、根拠のない期待に満ちた綾子の声にかき消されてしまった。
高塚には車で待っていてもいいと言ったのだが、ついてくるというので好きにさせることにして、一行は店へと向かって歩き出す。
すぐに店の裏口が見えてきた。
同時に香ばしいパンの香りが漂い始める。
綾子ではないけれど、高耶も少し空腹を感じ始めていた。
すぐ後ろを歩く高塚はやはり落ち着かない様子で、クンクンと周囲の匂いを嗅いでいる。
と、ちょうどそこへ店の裏口から、従業員らしき白衣の人物が出てくるのが見えた。
「あ!」
綾子が声を上げる。
「ナイスタイミング!私、ちょっと時間貰えないか聞いてくるわ!」
と言うなり走って行ってしまった。
どうやら、あの人物が店長のようだ。
近づくに連れてその容姿が明らかとなる。
(………ん?)
人の良さそうな顔立ちをしていた。日曜の公園にいるお父さんといった雰囲気だ。
三浦が言っていたという、極悪非道の人間にはとても見えなかった。
しかし、綾子の入れ込みようからものすごい美男子を想像していた高耶にしてみると、失礼な話だがなんだか拍子抜けしてしまった。
「ねーさんはああいうのが好みなのか」
「さあ……。晴家の好みについては考えてみたこともないですから……」
もしかしたら、"彼"に似ている部分があるのかもしれませんねと直江は言った。
それで思い出す。綾子には200年もの間、待ち続けている相手がいたはずなのだ。
(そっか……)
高耶は想像する。
年齢も性別も容姿もわからない相手を探すことの苦労の大きさを。
きっと人と出会う度、すれ違う度に、その人の面影がないか、どこか似ている部分はないか、と考えるのだ。
隣の男が自分と再会するまでの間、ずっとそうしてきたように。
「早く行きましょう。あいつに任せたままにしておくと、とんだ誤解をされそうですよ」
そう言われて店の方を見ると、綾子のあまりのテンションの高さに、店長がかなり不審な目になっている。
不利な状況を打開しようと直江が近づいていって声をかけた。
すぐに高耶も加わって、とりあえず話を聞いて欲しいと頼んでみる。
わいわいと騒ぐ一行の後ろで、高塚はひとり奇妙な顔で佇んでいる。
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きえん つれびと
奇縁の連人