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  <title type="text">奇縁の連人</title>
  <subtitle type="html">きえん　つれびと</subtitle>
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  <updated>2009-06-25T16:02:12+09:00</updated>
  <author><name>折り鶴</name></author>
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    <published>2009-09-11T20:16:39+09:00</published> 
    <updated>2009-09-11T20:16:39+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>２２</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　ふたりが浄化してしまって、残されたのはふたりの憑巫だ。<br />
　三浦のほうは事の次第を全てわかっていたようで、少しだけ泣き顔になっていた。<br />
　高塚の方は、開口一番こう言った。<br />
「あれ……？爆弾娘……？」<br />
　綾子のことを不思議そうに見ている。<br />
「やめてよ、その呼び方！」<br />
　高塚の見事なネーミングセンスに、思わず高耶は吹き出してしまう。<br />
「なんで君がいるの。ていうか、ここはどこ」<br />
　高塚には、憑依されていた間の記憶がすっかりなくなっていた。もちろん、霊に身体を貸したことなど覚えてもいない。<br />
　不審な顔になりかけた高塚だったが、陽一があのふたりの成型したクロワッサンを焼きたてのまま包んで、綾子たちに配ってくれたお陰で、それを手に上機嫌で帰って行った。徒歩で帰るという。本当に家はすぐ近くだったらしい。<br />
　三浦は陽一との仲もすっかり修復されたようで、明日からでもアンジュに復帰したいと言っていた。<br />
　あの様子なら、陽一も承諾するだろう。<br />
<br />
<br />
「ふつー、記憶がなくなったらさぁ、もうちょっと気にするよな」<br />
　店を後にした三人は、すっかり暗くなってしまった道を、パーキングへと向かって歩いている。<br />
　高耶は高塚の能天気さにすっかり感心（？）してしまっていた。<br />
　一瞬記憶が飛んだとかいうレベルの話ではない。普通なら頭でも打ったのではないかと、病院へ駆け込んだっておかしくはないだろう。<br />
「さあ。本人が気にしてないんだから、いいんじゃない？」<br />
　それよりコレ、食べてもいい？と綾子はおみやげの紙袋のほうを気にしている。<br />
　綾子こそ高塚のことについて、どうでもいいようだ。<br />
「はひ～～～♪おいひ～～～♪」<br />
　綾子の持つ袋に横から手を伸ばしながら、高耶は思い出したように言った。<br />
「そういえば、なんで店長のじーさんは迷子になったんだろう？」<br />
　寿一のことだ。<br />
「霊力の強い人間にひっぱられたと言っていましたね」<br />
　守護霊が自ら守護対象から引き離されてしまうほどの強引な霊力。<br />
「《闇戦国》関係でしょうか」<br />
「でも守護霊を迷子にすることに、何の意味があるんだよ」<br />
　高耶と直江が話していると、突如、 <br />
「はっっ！！」<br />
　といきなり綾子が叫んだ。顔色が真っ青だ。<br />
「どうした？」<br />
　と直江が声をかけると、<br />
「うう……！！」<br />
　と今度は頭を抱えだした。<br />
「平気かよ、ねーさん。食いすぎじゃねえのか」<br />
　食べすぎでは頭は痛くなりませんよ、と直江がやんわり高耶に突っ込んでいると、がばっと顔をあげた綾子がいきなり高笑いを始めた。<br />
「ね、ねーさん？」<br />
　ひとしきり笑うと、乾いた笑顔でペラペラと喋りだした。<br />
「そ～いえばこの前アンジュに来た時、うすぼんやりした霊が一体、私の魅力にやられてくっついてきちゃったのよね～。けど、その日の飲み会でかなり酔っ払って、その霊どっかに落っことして来ちゃったんだったわ～」<br />
「………」<br />
「………」<br />
「あの日の飲み会、高塚くんもいたっけなあ～。考えてみると、高塚くんの様子がおかしくなったのってあの日からのような気もするな～」<br />
「………」<br />
「………」<br />
　じっとりとした視線を直江は綾子に送りつけた。<br />
　呆れた高耶は額に手をやっている。<br />
「ありえない……」<br />
「……すびばせん」<br />
　その反省しきりの綾子の顔をみて、高耶が笑い出した。<br />
（……………）<br />
　直江はその笑顔を見ながら思う。<br />
　いつまでもそうやって笑っていて欲しい、と。<br />
　以前、笑顔をみたいから会いに来るのだと言ったことがあった。要は安心したいのだ。高耶の中のあの正義が、まだ覚醒していないことを。<br />
　ギラギラとした刀のような、直江の身を切り裂く正義。<br />
　自分はそれを恐れているのだろうか？恐怖とは少し違う気がする。苦しいとわかっていても、一度目にしたら最後、二度と視線をそらせなくなるあの特殊な<span class="line">───</span>……。<br />
「いつでもこんな風に円満解決だったらいいのにねえ」<br />
　ぽつりと綾子が言った。<br />
「事件を起こした張本人が何を言っているんだ」<br />
「あら、私がいなかったあの二人はいつまで経ってもこっちに残ってたってことじゃない？」<br />
　あまりの前向き加減に逆にうらやましくなる。でもまあ、確かに綾子の言うとおりだ。<br />
　事なきを得たのだからよしとしよう。<br />
　それよりも気になることは、今回の事件の憑巫たちだ。<br />
　生き人と死に人の関係とはこんなものだっただろうか？そりゃあイタコのように憑依を生業としている者もいたし、死者の魂に家族や親しい人間が身体を貸すといったことは昔から無いことではないが。<br />
　今の若者は死霊に対する畏敬の念のようなものが極端に少ない。死霊に対して、まるで友達感覚だ。きっとあのふたりの性格が特殊だったせいだけではない。命そのものへの認識や、生への執着が希薄な今、必ずしも両者の間に身体を巡る争いが起きるとは限らないのかもしれない。<br />
　今後、こういう事件が増えてくるのだろうか。時代は急激に変化している。死者と生者の関わる形もますます多様化してくることは、間違いないだろう。<br />
　そのようなことを直江が話すと、綾子からやはりポジティブな答えが返ってきた。<br />
「私達は出来ることを精一杯するだけよ。ね、景虎」<br />
　それを受けて高耶も考える。<br />
　自分のことにすら手がまわらないのに。多様化したもの全てに対応していけるようになるにはどうすればいいのか。自分の実力と性格では、精一杯でも足りない気がする。<br />
　考えていた傍から、高耶は自分のミスに気付いてしまった。<br />
「ああああっ！服買ってねえ！」<br />
「あ、すっかり忘れてたわね。しょーがない。おねーさんが買って送ってあげるわよ」<br />
「……なら、最初っからそうすりゃよかった」<br />
　げんなりとする高耶に、直江が声をかける。<br />
「夕飯、食べていきますか？」<br />
「いや、もうかえんねーと。美弥に内緒で来てんだから」<br />
　振られた直江の腕に、元気よく綾子が飛びつく。<br />
「私は食べてく！どこいこっか！？」<br />
「お前はたった今、食べてただろうが……」<br />
　未来への憂いも、過去の呪縛も、いま抱ええる空腹には勝てないのだ。<br />
　ひとまずは置いておこう。<br />
　騒がしい綾子と、どうにか夕飯へと連れて行きたい高耶を促して、直江は車へと乗り込んだ。<br />
<br />
<br />
<br />
　　□　終わり　□]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kiennotsurebito.blog.shinobi.jp://entry/21</id>
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    <published>2009-09-11T20:16:23+09:00</published> 
    <updated>2009-09-11T20:16:23+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>２１</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　ふたりはお互いの肩を叩きながら、ひとしきり泣きあった後でやっと離れた。<br />
　すると寿一が、陽一に向かって笑いかけた。<br />
「話をするのは久しぶりだね、陽一」<br />
「じ、じーさん……」<br />
　けれどずっと姿は見守っていたのだ。寿一はこの店の守護霊として、ずっとこの世に残っていたのである。<br />
　ところが開店以来細々と続けていた小さな店に、一気に人が押し寄せるようになってしまって、霊のくせに混乱したらしい。<br />
　気がつくと、やたらと霊力の強い常連客に引っ張られるようにして、店から離れてしまっていた。<br />
　それで更に混乱し、記憶すらあいまいになっていたようだ。<br />
「けれど、やっちゃんのことがわからなかったなんて信じられない」<br />
「お互い生前とは姿が全く違うからな」<br />
「そうだね。やっちゃんはすっかり元気そうだし、私も手が動く」<br />
　寿一は具合を確かめるように左腕を曲げ伸ばしした。<br />
　それを見て、増田が陽一を振り返る。<br />
「せっかくだから、何か作らせて貰うことはできないだろうか」<br />
「うん、私からも是非頼みたい」<br />
　ぽかんとふたりを見つめていた陽一は、<br />
「……わかったよ」<br />
そう笑うとすぐに準備を始めた。手際よく、休憩室が簡易キッチンへと変わっていく。<br />
　最後に、大きなパン生地が持ち込まれた。<br />
「じゃあ、クロワッサンの成型をお願いします」<br />
　そう言うと、その生地をテーブルの中央に置いた。<br />
「すばらしい……」<br />
　増田がまるで神聖なもののようにその塊に触れる。<br />
　当時では考えられないような最高級の食材を使った生地なのだ。<br />
「うちのは独特の食感を出す為に、かなり小さめに作ってるんだ」<br />
「……知っているよ」<br />
　寿一も同じように生地に触れながら、ずっと見ていたんだからと言うと、ためらいなくその生地を伸ばし始めた。<br />
　次々と形作られていく巻き貝たちが、準備された台の上に均等に並んでいく。<br />
　ギャラリーの三人は眼を見張るばかりだ。<br />
　ついさっきまで名前すら忘れたというのに、本当に不思議なものだ。今、目の前にいるのは、立派なパン職人の若者ふたりにしかみえない。<br />
　すべての形成を終えて、陽一はそれを別室へと運んでいった。<br />
「発酵が終わって焼きあがるまでにしばらくかかるから、その間に良かったらこれを」<br />
　そう言って陽一が持ってきたのは、きれいに焼きあがったクロワッサンだった。<br />
「少し前に焼き上げたばかりのものです」<br />
　やった！と一番に飛びつこうとした綾子を直江が制する。<br />
「まずはあのふたりが先だろう？」<br />
　ふたりはしばらく躊躇するようにクロワッサンを眺めていたが、やがてどちらともなく手を出した。<br />
　口へ運ぶ間に漂ってくる香りすら楽しむように、とてもゆっくりと口へと運ぶ。<br />
「………！」<br />
「……！うん、これは……！！」<br />
　思わず顔を見合わせた。<br />
「これこそ、理想の味だ……」<br />
　　さくり　<br />
　　　　　　ふわり<br />
　香ばしい皮の中にはふわっとしたやわらかい生地。<br />
　ほろほろと口の中で皮の欠片が崩れ落ちる。バターの濃厚な風味がとても甘く感じる。<br />
　優しい。愛情の味だ。いくらでも食べれる。<br />
　陽一にふたつめを進められて、ふたりとも迷わず手を伸ばす。<br />
　そこへ綾子と少しだけ高耶も加わり、トレイに山ほどあったクロワッサンはあっという間になくなった。<br />
「ここまで食べっぷりがいいと嬉しいですね」<br />
　陽一は顔を綻ばせている。<br />
「あの時の味より、格段に上だ……」<br />
　増田はつぶやくように言った。あの女性にかけられた呪い。あの呪縛から今、やっと解き放たれたような気がしていた。<br />
「これほどの幸せは無いよ」<br />
　寿一も言う。<br />
「私達ふたりの夢が受け継がれ、今、こんな素晴らしい形で、たくさんの人々を幸せにしてるんだから」<br />
「………そうだな」<br />
 <br />
 "残りはない"<br />
<br />
　二人の想いはどうやら一緒のようだ。<br />
「寿一、一緒にいこう」<br />
　増田の言葉に、寿一は素直に頷いた。<br />
「いくってどこへ……」<br />
　不思議そうな顔をしている陽一に、寿一は言った。<br />
「ここではないところだよ」<br />
「なっ……！待ってくれ、じーさんっ！俺、あんたに色々聞きたいことが山ほど……！」<br />
　慌てる陽一に、寿一は優しく言った。<br />
「私がお前に教えられるようなことはもうないさ」<br />
　名残を惜しむように、休憩室を見渡しながら言う。<br />
「お前なら、この店を任せられる。護る必要ももうないだろう」<br />
「じーさん……」<br />
　寿一は陽一の肩をポン、と叩くと、増田へと向き直った。<br />
「やっちゃん約束だ」<br />
　生前不自由だった左手を、前に差し出す。<br />
「来世では絶対にふたり一緒に夢を叶えよう！」<br />
「……ああ、必ず……！」<br />
　増田も出された手を握り返した。<br />
　穏やかなふたりの表情を見て、高耶は傍らを振り返った。<br />
「直江」<br />
　高耶の意図を汲み取って、直江も頷く。<br />
「御意」<br />
　一歩前へ出た。<br />
「のうまくさんまんだ ぼだなん ばいしらまんだや そわか.」<br />
　突如真言を唱え始めた直江に、陽一は戸惑っていたが、増田と寿一は直江のその行動がどういうものか、悟ったらしい。<br />
「南無刀八毘沙門天 悪鬼征伐 我に御力与え給え」<br />
　直江の声が静かに響き渡る。<br />
「《調伏》<span class="line">───</span>」<br />
　ふたりは、悲鳴をあげることも抵抗することも無く、静かに逝った。]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kiennotsurebito.blog.shinobi.jp://entry/20</id>
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    <published>2009-09-11T20:16:06+09:00</published> 
    <updated>2009-09-11T20:16:06+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>２０</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「このノートは、その女性がいなくなってから徴兵されるまでの間、ふたりが必死に考えたレシピなんです」<br />
　長い話に声もなく聞き入る一同を見渡すようにして、陽一は言った。<br />
　戦争から戻ったら、必ずふたりでパン屋を開こう、と誓ってふたりは出征したのだそうだ。<br />
　ところが、戦とは本当に残酷なものだ。<br />
「じーさんは外地で怪我をして左腕が不自由になり、パン作りなんてとても無理な身体になってしまいました」<br />
　それでも右手だけでなんとかならないかと、かなり試行錯誤したらしい。<br />
「何故かと言うと、安二郎さんの方がもっと酷い状況にあったからなんです」<br />
　赴いた先の食料事情や不衛生な環境が元で、あの誰よりも元気で丈夫だった増田が、肺の病を患ってしまったのだ。<br />
　医者に見せても、もう与える薬すらないと言われるほどに悪化した状態だった。<br />
　後は死ぬのを待つだけだとわかった時の増田の心は、とても計りきれないと寿一はよく言っていた。<br />
　それでふたりは、本当に命がけでパン屋を開業する為の行動を開始したのだ。<br />
　もちろんまともな材料なんて手に入らない。寿一は増田に隠れて、危ない筋から借金までして、なんとか開店にこぎつけた。が、そのときには既に、増田は起き上がるのがやっとの状態だった。<br />
「一緒に店をできたのはたった三日だけだったと聞いています」<br />
　店で血を吐いて倒れ、そのまま入院してすぐに亡くなったと。<br />
「そうだ……。そうだったんだ……」<br />
　呟くような声が漏れた。三浦の瞳から涙がぽろぽろこぼれている。<br />
　いつのまにか、増田に入れ替わっていた。<br />
「すべて、思い出した……」<br />
　手が不自由だからうまくパンがやけない。そう言って生まれて初めて苛立った顔をみせた寿一。<br />
「あの優しい寿一が、嫌がる息子を怒鳴りつけながら手伝わせて……そうまでしてパンを焼いたんだ」<br />
「そ、その話、親父に聞いたことがあります……」<br />
　増田は病院に担ぎ込まれた後、あっけなく死んだ。苦しい息の中、ずっと握っていてくれた寿一の手の温かさはまだ覚えている。三浦と会ったあの病院だ。<br />
「本当に彼は温かい男だったよ」<br />
　話に聞くだけだった人物が祖父を語るのを目の前にして、陽一の瞳も心なしか潤んでいる。<br />
　ところがそれ以上、号泣といってよい程に涙を流している人物がいた。<br />
「ううっ、あうううっ」<br />
　高塚だ。<br />
　先程から何かを喋ろうと口を開くのだが、嗚咽で言葉をうまく紡げない。<br />
「ちょっと、鼻水くらい拭きなさいよ……」<br />
　綾子が自分の鼻を拭いていたハンカチを高塚に差し出すと、それを押しのけて高塚が叫んだ。<br />
「ワﾞタﾞシﾞテﾞスﾞッッ！！」<br />
「……は？」<br />
　思わず全員が高塚をみる。何と言ったのかがまるでわからない。<br />
「ぼっ、ぼくですっ！！やっちゃん！！」<br />
　高塚は増田の手を両手で握った。その温かさに増田が眼を瞠る。<br />
「寿一ですっっ！！」<br />
　増田が眼を剥いた。<br />
　陽一も呆気にとられている。<br />
　綾子の手からはお茶がこぼれ、高耶と直江の口はぽかんと開きっぱなしだ。<br />
「じゅ……じゅいっちゃん……？」<br />
　恐る恐る名を呼んだ増田に対して、高塚に憑依した飯島寿一はぶんぶんと首を縦に振って見せた。]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
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    <id>kiennotsurebito.blog.shinobi.jp://entry/19</id>
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    <published>2009-09-11T20:15:50+09:00</published> 
    <updated>2009-09-11T20:15:50+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>１９</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　まず彼女はふたりを西洋風のちゃぶ台の前に座らせた。<br />
　そして、お勝手のほうから茶色い物体をかごに入れて持ってくる。<br />
　差し出されて手に取ると、菱形のそれは表面がきらきらと光っていて軽く、甘い油の香りがしていた。<br />
　"これはパンです”と彼女が言うまで、ふたりはそれが何だかわからなかった。ふたりの知るパンとはまるで見た目が違っていたからだ。<br />
　まだ温かさが残っている。<br />
　そっとかじってみて、唖然となった。<br />
　食感も味も、今までにないものだった。<br />
　この世で一番美味しいものは、間違いなくこれだ、と思った。<br />
　出されたものを二人だけで平らげてしまうのに、そう時間は要らなかった。<br />
　後になって、あの時彼女は自分で食べる為に焼いたであったろうに、遠慮もせずに食べてしまったことを後悔したりもした。<br />
　が、その時はふたりしてそのパンに夢中で、そんなことを考える余裕はなかった。<br />
　ただ、その時の彼女に怒った風はなく、明るく楽しそうに微笑んでいた。<br />
　彼女にはきっとわかっていたのだ。<br />
　ふたりがこの日の出来事に一生心を囚われてしまうことを。<br />
　内心、自分の呪いが成功したとほくそえんでいたかもしれない。<br />
　味覚欲、食感欲とでもいうべき呪い。そしてその呪いは、ふたりに夢と情熱を与えた。<br />
　その日から、毎日のように彼女の家へと通った。<br />
　その食べ物が"クルワソーン"という名前だとわかり、成型の方法を習ったりもした。<br />
　初めて触れたパンの生地はとてもやわらかい餅のようで、寿一は口にこそ出さなかったが、母親の体のようだと思った。<br />
　彼女が生地を伸ばし、均等に切り分けられた三角のそれをくるくるとまいて見せる様子は、やはり普通の人間の持たざる技のように見えた。その魔法の技を習得するのに、ふたりして夢中になった。<br />
　結局、彼女はある日突然消えるようにしていなくなってしまうのだが、それでも彼らの呪いが解けることはなかった。<br />
　あの感動を忘れることができないふたりは誓ったのだ。大きくなったら自分達で"クルワソーン"を作って、毎日たらふく食べよう。そしてもっとたくさんの人に食べてもらおう、と。<br />
　ところが彼らが就職先を探す歳になる頃にはすでに、あの戦争が始まろうとしていた。]]> 
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    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kiennotsurebito.blog.shinobi.jp://entry/18</id>
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    <published>2009-09-11T20:15:35+09:00</published> 
    <updated>2009-09-11T20:15:35+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>１８</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　飯島家は古くからこのあたりに住んでいて、陽一の祖父、寿一もやはりここのすぐ近くで生を受けた。<br />
　その寿一より三日ばかり早く産声をあげたのが、斜向いに住む増田家の安二郎だったという。<br />
　小さい頃からとにかく仲が良く、何をするにもふたり一緒だった。おっとりとした寿一と対照的に活発な安二郎はケンカなどしたこともなく、ふたりで遊び始めれば延々熱中し続けていたという。<br />
　昭和という元号にやっと耳が慣れてきたとある年、ふたりの間では探検あそびが流行っていた頃のことだ。<br />
　いつもは近所の神社の境内を、遺跡や未開の土地にみたてて遊ぶのだが、その日だけは早起きをして出かける予定を立てていた。<br />
　隣町にある、とある家を見に行くためだ。<br />
　近所のガキ大将がその家に住む女に、呪いの言葉のようなものを投げつけられた武勇伝は、界隈の子供たちの間では有名な話だった。<br />
　それを前々から羨ましく思っていた安二郎が、どうしても自分も行きたいと言って聞かないから、寿一も渋々ついていくことになったのだ。<br />
　ガキ大将の言うとおりに道筋を行くと、隣町のはずれにその家は建っていた。<br />
　呪いをかけてくるような女が住む家だ。寿一が想像していたのは、とても大きな洋館のようなものだったのだが、実際はこじんまりとした日本家屋で、しかも今にも倒れてしまいそうなものだった。<br />
　足音を忍ばせながら勝手に庭に入り込み、家屋に近づいて行く。心臓を破裂しそうなほど動悸させている寿一は、その家から何ともいえない好い香りが漂ってきていることに気付いた。<br />
　隙間風の酷そうな、壊れかけた窓からそっと家の中を覗き込む。と、すぐそこにいた女とばっちり目が合ってしまった。<br />
　高い鼻。ぼさぼさの獣の毛のような色の髪。黒い洋服の上に、更に黒くて古い着物を羽織りのように着ている。帯は締めていない。<br />
　彼女は笑って、めくばせをしながらふたりに向かって手招きをした。<br />
　寿一は冗談じゃないと思い立ち去ろうとしたのだが、安二郎はさっさと玄関の扉をあけて中へ入ってしまったから、慌てて後を追うほかなかった。<br />
　入ってみると、ごちゃごちゃと物の置かれた室内には、見たことのない文字の本や生活用具が並んでいて、冒険小説に出てくる外国帆船の航海室を連想させた。すると寿一は、さっきまでの恐怖はどこかへ消え、すっかり楽しい気分になってしまったのだ。<br />
　話をしてみれば、ガキ大将の言っていた呪いの言葉というのは、彼女の外国語訛りの日本語であることはすぐにわかった。<br />
　当時の外国人はどちらかというと偉人扱いされることが多かったのだが、彼女の独特の雰囲気は確かに外国のものというより異界のまじない師といった感じだ。<br />
　しかも彼女は数分後、彼らに本物の"呪い"をかけることとなる。]]> 
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            <name>折り鶴</name>
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    <published>2009-09-04T20:52:20+09:00</published> 
    <updated>2009-09-04T20:52:20+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>１７</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「すみません、怪しい者ではないんです」<br />
　せっかく綾子がいい感じで事を進めていたというのに、見るからに高級そうな黒スーツに黒ネクタイの直江に言われて、飯島陽一店長の顔は目に見えて引き攣った。<br />
「とにかく話だけでも聞いてもらえませんか？」<br />
　眼光鋭い元ヤン高校生の妙に威圧的な態度にも、飯島は引き気味だ。<br />
「いや、まだ営業中なので……」<br />
　引きとめようとする綾子の手を振り払って、また店内に戻ろうとする。<br />
「直江、アレは？」<br />
　綾子に言われて直江が懐に忍ばせてある最後の手段、警察手帳に手をやったその時、ものすごい勢いで一台の原付が突っ込んできた。<br />
　深くブレーキレバーを引いて横滑りしながら停まると、さっとメットを取った。<br />
　現れたその顔に飯島が驚く。<br />
「み、三浦っ！？」<br />
「……どーも」<br />
　睨んでいるのか拗ねているのかわからない顔つきで三浦は飯島を見た。<br />
　そして、<br />
「どーですか、ゲロりましたか？」<br />
　と綾子たちに向かって聞いてくる。<br />
　ゲロるも何もまだ話もしてないわよ、と綾子は言おうとしたが、店長の動きの方が早かった。<br />
　バイクに跨ったままの三浦の首根っこを、押さえつけ始めたのだ。<br />
「いててててっ……」<br />
「おまえっ！よく顔を出せたな！」<br />
　かなり怒った様子で、飯島は怒鳴った。<br />
　そういえば三浦は、この店に対して散々嫌がらせを働いていたのである。<br />
「な、なんの話だよっ！」<br />
「バカいうな！バレてないとでも思ってたのか！？おとといもやっただろう、俺の自転車！いい加減、子供みたいなことはやめなさい！」<br />
　腕を逆手に取られて悲鳴をあげる。<br />
「とにかく、中に入りなさい！話があるから！」<br />
　そのまま三浦をバイクから引き摺り下ろし、店の裏口へ連れ込もうとする飯島に綾子はとっさに言った。<br />
「あっ、じゃあついでに私達もっ！」<br />
　は？と聞き返す飯島の背中を三浦ごと押すようにして、４人は建物の中へとなだれ込んだ。　<br />
　<br />
<br />
「乗っ取り……」<br />
　そう、ため息をつく飯島の顔を、綾子はじっと見つめた。<br />
　改めて、いい男だと感じていた。<br />
　優しげな目鼻立ちと男気のある喋り方、製パンに対する情熱のようなものが内から滲み出ている（と綾子は思う）。<br />
　人というものは強いだけでも優しいだけでもきっと駄目なのだ。両方を兼ね備えてこそ、魅力ある人物といえる。<br />
　他者を救うことへの情熱と、弱者に対する限りない慈しみ。大好きなあの人のように。綾子は自分もそうでありたいと思う。<br />
「何か心当たりはありませんか？」<br />
  直江が訊く。飯島はなんだかんだ言いながら結局全ての話を聞いてくれた。<br />
　今は従業員用の休憩室にみんなでいる。お茶まで淹れてもらって。<br />
　三浦と増田が出合ったことや、自分たちがここへ来ることになった経緯、ついでに高塚の事情なんかを、直江が説明し終わったところだ。<br />
　唐突な疑いに怒ることもなく、隣で黙ったまま座っている三浦の頭を小突いただけだった。<br />
「こいつから何を言われたか分かりませんが、正直、自分はそんなばかげたことはしないですよ。この店だってうちのじーさんが始めたものを親父が継いで、親父が身体を悪くしたんで俺が継いだんです。」<br />
「じゃあ、元からこの店が他人のものだったことはない、と」<br />
「もちろんです」<br />
　ほーらね、やっぱり、と綾子は胸を張った。<br />
「信じちゃダメです。こんな風にみえても店長は昔、ヤクザだったんですから」<br />
　三浦の言葉を聞いて飯島は頭をぽりぽりとかいた。<br />
「違うっちゅーの。ガキの頃の友達がたまたまそっちのほうにいってる奴が多いってだけで、俺は普通の一般市民ですから」<br />
「え、でもバブルの時地上げやってたとか、借金取りやってたって」<br />
「は？……ああ、ありゃあ冗談。何だ、お前本気にしてたのか」<br />
「あ……当たり前っすよ！全然冗談っぽくなかったし！」<br />
　三浦は大声をあげた。<br />
「大体、従業員殴るなんてしないっすよ、ふつう。ヤクザっぽかったっすもん」<br />
「あれは確かに俺も大人気なかったけどな。けどお前、あのとき一週間も連続で遅刻してただろう。なのに謝りもしないで入ってきやがって」<br />
「だから、寝起きが悪いのは低血圧だからしょうがないって言ってんじゃないですかぁ……」<br />
　今度は三浦が頭をかいた。<br />
「ガラス割られた時だって、絶対お前だってわかってたし、よっぽど通報しようかと思ったんだからな」<br />
　しなかっただけありがたいと思え、と三浦の背中を叩いた。<br />
　どうやら、色々と誤解があったようだ。<br />
「じゃあ、やはり増田のいう店というのは別の"アンジュ"かもしれませんね」<br />
　直江が考え込むように言うと、<br />
「いや、それが」<br />
　と飯島が首をかしげている。<br />
「何か？」<br />
「そのマスダって名前だけは聞いたことある気がするんだけどなあ」<br />
　しばらくマスダマスダとつぶやいていた店長は急に<br />
「ああっ！」<br />
と叫び、何かを思い立って慌てて部屋を出て行った。<br />
「どうしちゃったんだろ」<br />
「さあ……ってゆーか、あんた。そうとう飯島さんに世話になってんじゃないのよ！なーにが極悪非道の男よ！」<br />
「え、俺そこまで言ってないっす……」<br />
　綾子が三浦をちくちくと責めていると、店長がバタバタと戻ってきた。<br />
「こ、これ、みてみてください！」<br />
　それは一冊の古びたノートだった。<br />
<br />
　"安寿"レシピノート<br />
<br />
　　増田　安二郎<br />
　　飯島　寿一<br />
<br />
「飯島寿一っていうのはうちのじーさんなんですけどっ」<br />
「増田……安二郎？」<br />
「思い出しましたよ、じーさんがしょっちゅう話してくれてたのに、すっかり忘れてた」<br />
　懐かしむような目でノートをぱらぱらとめくる。<br />
「増田安二郎って人はじーさんの幼馴染で、一緒にこの店を始めた人なんです」<br />
　その言葉に全員が息をのむ中、飯島は静かに祖父から聞いたという話を語り始めた。]]> 
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            <name>折り鶴</name>
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    <published>2009-09-04T20:51:57+09:00</published> 
    <updated>2009-09-04T20:51:57+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>１６</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　"アンジュ"の近くにあるコインパーキングへ車を入れる頃になって、急に高塚の様子がおかしくなった。<br />
　なんだかそわそわとして落ち着かない。<br />
「どうかしたの？」<br />
　隣に座っていた綾子が声をかけてもキョロキョロしている。<br />
「なんだかここら辺に見覚えがある気がします……」<br />
　パーキングからは店の裏通りが見通せる。その辺りにはかなり年季の入った家々が立ち並び、風情ある下町の風景といった感じだ。<br />
　どこからか風鈴の音が聞こえてきて、目の前を猫が横切る。<br />
「そういえば高塚くんちってこの近くだった気がするわ。近所の雰囲気が好きだからよく散歩するんだって言ってた」<br />
　ならばこの辺りを歩き回っていたとしてもおかしくはない。高塚は昭和の時代が大好きで、古家具なんかを集めたりもしているらしい。　<br />
「いいよな、こーゆーの」<br />
　高塚じゃなくとも、このなんとも懐かしい独特の雰囲気が嫌いな日本人などきっといない。<br />
　直江を振り仰いでみると、少し真面目な顔をしてこちらを見ていた。<br />
　なんだよ、と言おうとしたのに、ふっと視線を逸らされる。<br />
「さ、とっとと行くわよ！もしかしたらタダで何か食べられるかもしれないわ！」<br />
　高耶の感じたわずかな違和感は、根拠のない期待に満ちた綾子の声にかき消されてしまった。<br />
　高塚には車で待っていてもいいと言ったのだが、ついてくるというので好きにさせることにして、一行は店へと向かって歩き出す。<br />
　すぐに店の裏口が見えてきた。<br />
　同時に香ばしいパンの香りが漂い始める。<br />
　綾子ではないけれど、高耶も少し空腹を感じ始めていた。<br />
　すぐ後ろを歩く高塚はやはり落ち着かない様子で、クンクンと周囲の匂いを嗅いでいる。<br />
　と、ちょうどそこへ店の裏口から、従業員らしき白衣の人物が出てくるのが見えた。<br />
「あ！」<br />
　綾子が声を上げる。<br />
「ナイスタイミング！私、ちょっと時間貰えないか聞いてくるわ！」<br />
　と言うなり走って行ってしまった。<br />
　どうやら、あの人物が店長のようだ。<br />
　近づくに連れてその容姿が明らかとなる。<br />
（………ん？）<br />
  人の良さそうな顔立ちをしていた。日曜の公園にいるお父さんといった雰囲気だ。<br />
　三浦が言っていたという、極悪非道の人間にはとても見えなかった。<br />
　しかし、綾子の入れ込みようからものすごい美男子を想像していた高耶にしてみると、失礼な話だがなんだか拍子抜けしてしまった。<br />
「ねーさんはああいうのが好みなのか」<br />
「さあ……。晴家の好みについては考えてみたこともないですから……」<br />
　もしかしたら、"彼"に似ている部分があるのかもしれませんねと直江は言った。<br />
　それで思い出す。綾子には200年もの間、待ち続けている相手がいたはずなのだ。<br />
（そっか……）<br />
　高耶は想像する。<br />
　年齢も性別も容姿もわからない相手を探すことの苦労の大きさを。<br />
　きっと人と出会う度、すれ違う度に、その人の面影がないか、どこか似ている部分はないか、と考えるのだ。<br />
　隣の男が自分と再会するまでの間、ずっとそうしてきたように。<br />
「早く行きましょう。あいつに任せたままにしておくと、とんだ誤解をされそうですよ」<br />
　そう言われて店の方を見ると、綾子のあまりのテンションの高さに、店長がかなり不審な目になっている。<br />
  不利な状況を打開しようと直江が近づいていって声をかけた。<br />
　すぐに高耶も加わって、とりあえず話を聞いて欲しいと頼んでみる。<br />
　わいわいと騒ぐ一行の後ろで、高塚はひとり奇妙な顔で佇んでいる。]]> 
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    <id>kiennotsurebito.blog.shinobi.jp://entry/15</id>
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    <published>2009-08-28T19:54:38+09:00</published> 
    <updated>2009-08-28T19:54:38+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>１５</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「で、やっぱりアンジュはあんたの店に間違いない訳？」<br />
　人格が増田に入れ替わると、とたんに眼光が鋭くなる。<br />
「それは絶対に間違いない！店構えに見覚えはなかったが、あのクロワッサンの匂い……あれだけは絶対に間違えない自信がある！」<br />
　増田は強く言い切った。<br />
「そういえばあの店、一度新装開店してその後人気が出始めたのよね」<br />
　綾子が口元に手を当てながら言う。ならば、店舗を外から見ただけでは判断がつかないかもしれない。<br />
「あんた、家族はいるのか？」<br />
　高耶が増田に訊いた。<br />
「もしあんたの店を乗っ取ろうって奴がでてきたら、家族が黙ってないんじゃないのか？」<br />
　増田は首を横に振った。<br />
「生前の記憶はもう殆ど残っていないんだ……。いたのかもしれないし、いなかったかもしれない」<br />
「三浦と出会った病院で亡くなったのは間違いないんだな？」<br />
「それは間違いない。どこの病室だったかも覚えてる」<br />
　その他ひと通り話を聞いた後で、三人はまた隅に寄って相談を始めた。<br />
「店のほうは登記を取ってみましょう。彼の身元に関しては病院を当たってみるのが一番早いと思います」<br />
　そう提案した直江に綾子はあっけらかんと言い放った。<br />
「てゆーかそんなのめんどくさいからさ、直接店長に話聞きにいきましょうよ」<br />
　直江が呆れた顔で綾子を見た。面倒くさがりにもほどがある。というより、何か他意があるような気がしてならない。<br />
「乗っ取りが事実だとして、そんなことを企む人間が素直に話をしてくれると思うのか？」<br />
「あの店長さんがそんなことする訳ないんだってば！」<br />
　直江は大きくため息をつくと、二人の憑依霊へ視線をやった。<br />
　境遇が似ていなくもない憑依霊ふたりはなんだか異様に気が合うらしく、楽しそうに話している。<br />
「土をこねるというのは空気を抜く為なんだけど、やりすぎてもいけないようなんです。乾いてしまうから」<br />
「やりすぎてもいけないというのはパンでも同じだね。パンをこねる過程で注意すべきは"グルテン"なんだけどね」<br />
「ええ、ええ」<br />
「グルテンっていうのは……」<br />
　そこから増田の講義が始まった。高塚は人の好い笑顔を浮かべてにこにこと聞いている。<br />
　なんだか奇妙な友情が生まれ始めているようだ。<br />
「ともかくここにいてもしょうがないから」<br />
　結論を促すために綾子は景虎を見た。<br />
　直江も見る。<br />
　二人の視線を浴びながら、高耶は言った。<br />
「……店長に会ってみる」<br />
　綾子がガッツポーズをとった。<br />
「高耶さん」<br />
「どんな奴なのかは直接話して見なきゃわかんねーだろ」<br />
「……わかりました」<br />
「決まりね！」<br />
「"陶芸家"のほうはどうしますか？」<br />
「連れて行く」<br />
「はい？」<br />
「何か仲良さそうにしてるし。色んなとこに連れて行ったほうが思い出すきっかけも掴みやすいかもしんねーし」<br />
「そうでうすね」<br />
　直江は頷いた。<br />
　そうと決まれば三人の行動は早い。すぐにふたりに声をかけ、三浦はバイクで、その他の4人が車で移動することとなった。]]> 
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        </author>
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    <id>kiennotsurebito.blog.shinobi.jp://entry/14</id>
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    <published>2009-08-21T19:27:40+09:00</published> 
    <updated>2009-08-21T19:27:40+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>１４</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「今日は身の上話を聞いてばっかね」<br />
　しかも霊のものばかりをだ。眼光鋭い憑依霊の隣に、何故か高塚（に憑依した霊）が座っているから、三人は正面に立った。<br />
　やはり先程と同じ、尋問する刑事のように綾子が身を乗り出す。<br />
「まずは、名前ね。忘れたとは言わせないわよ」<br />
「……増田だ」<br />
　人差し指を突きつけられた憑依霊はそう言った。<br />
「で、マスダさんは一体どうして復讐がしたい訳？」<br />
　増田の声色に再び不穏な空気が混じる。<br />
「あの"アンジュ"はもともと、私の店だったんだ。それをあの男に奪われた。だから、だ」<br />
　直江は思わず綾子と顔を見合わせた。<br />
　"アンジュ"とは先程のパン屋の名前だ。わからないでいる高耶に直江が耳打ちで教えてやっている。<br />
「あの男っていうのは誰のことよ」<br />
「あの店の店長だ」<br />
　綾子はホウ、とため息をついた。<br />
「あんなに優しそうなのに……。強引なところもあるのね」<br />
　つっこみたい気持ちを抑えて、直江が先を促す。<br />
「借金のカタか何かでとられたのか？」<br />
「いや、違う」<br />
「じゃあ、娘婿が勝手に跡を継いだとか？」<br />
　その問いは何故か綾子が即座に否定された。<br />
「ううん、あの店長さんは３２歳独身。ちゃんとリサーチ済みよ」<br />
「………」<br />
　言葉を失う直江を置き去りにして、綾子は店長寄りで話を進める。<br />
「大体それっていつの話よ？あんた死んでから５０年は経ってるでしょう？あの店長さんがあんたから店を乗っ取れる訳ないと思うんだけど」<br />
「……でも、間違いない！あの店もあのクロワッサンも私のものなんだ！」<br />
　綾子お気に入りのサクふわクロワッサンには店の名と同じくアンジュ（天使）と名がつけられていて、店の名物商品でもある。<br />
「そう言われてもねぇ……」<br />
　増田の必死さをプラスして考えても、なんだか説得力がない。話が漠然としすぎているせいだ。<br />
「もっと具体的に話してくれ。いつ、どうやって奪われたんだ？」<br />
「それは………。わからない」<br />
「わからないってまさか、あんたまで記憶喪失とかいうんじゃないでしょうねぇ」<br />
　増田はそのまま黙りこくってしまった。<br />
「ちょっと待ってよ。それで何で奪われたって言いきれるのよ」<br />
「三浦君が言っていたからだ。あの店長は極悪非道で相当の悪だそうだから」<br />
「あんた……っ、誰よ三浦って！いい加減にしないとキレるわよっ」<br />
　すると、綾子を睨みつけていた増田におかしな現象が起きた。<br />
「なに……？」<br />
　一度まばたきをした男が再び開眼した時には、まったく様子が変わってしまったのだ。<br />
「俺が説明します」<br />
「はい？」<br />
　明らかに口調も違う。イントネーションが現代の若者そのものだ。<br />
「俺、三浦っていいます。身体を増田さんに貸している者です」<br />
「はぁっ？」<br />
　今度は三人で顔を見合わせた。一体どういうことか。<br />
「実は俺、アンジュの元従業員なんです。けど、店長と喧嘩して店飛び出しちゃって」<br />
　身なりの通りイマドキの若者といった感じの三浦はハキハキと喋った。<br />
「あの店長マジ性格悪くて。俺なんて親にも滅多に怒られたりしねぇのに、一回遅刻しただけで態度が悪ぃって殴られたんすよ！？だからまあ、結局耐えられなくなって辞めたんですけど。でも泣き寝入りすんのもヤだったから、窓ガラス割ったり、店長の自転車のタイヤをパンクさせたり地道に活動してたんですけど」<br />
「タチ悪い……立派な犯罪じゃないのよ」<br />
　それを聞いた高耶はなんだかバツの悪そうな顔をしている。元ヤンとしては、似たようなことで身に覚えがあるらしい。<br />
「まあ、それだけ頭にキてたんです、俺も。どうしてもパン職人になりたくてあの店に入ったのに、全然思うようにいかねぇし……。で、そんなときにたまたまバァちゃんが入院することになって、見舞いに行った病院で増田さんに声かけられたんです」<br />
「声かけられたって、ナンパじゃないんだからさ」<br />
「最初は幽霊だってわかんなくて。でも色々話してるうちに製パンの話になって、昔職人だったこととか、オリジナルレシピのこととか聞いたりして」<br />
「へぇ……」<br />
　増田の容姿が亡くなった祖父に似ていることも、打ち解けられた原因なんだそうだ。なんだか老人には優しい性格の持ち主らしい。<br />
「そんでクロワッサンの話とか、増田さんの店の名前も実は"アンジュ"だったとかって話になって。どうしても一度店を見てみたいっていうから俺にヒョーイしてもらったんです」<br />
　息を引き取った病院で地縛霊となっていた増田は、そうしないと移動できなかったそうだ。<br />
「それであそこにいたのね」<br />
「そう。したらあんたたちが現れて」<br />
　直江と綾子を何故か店長の"手先"だと思ったのだそうだ。三浦にしてみても散々嫌がらせをした後ろ暗さがあるから、逃げ出したのだという。<br />
「でも、あんたたちを追っていけば、アジトがわかるんじゃないかと思って」<br />
　店長をまるで悪の親玉のように思っているらしい。<br />
「残念ながら、私たちは店長とは無関係よ」<br />
　本当に残念だけど、と綾子がしつこく繰り返す。<br />
「店に行ってみて何か分かったのか？」<br />
　直江が聞くと、三浦は首を振った。<br />
「それが、なんだか増田さんの言うことがあいまいで……。そこは直接聞いてみてください」<br />
　そういうと、三浦は再び増田と入れ替わった。]]> 
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            <name>折り鶴</name>
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    <id>kiennotsurebito.blog.shinobi.jp://entry/13</id>
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    <published>2009-08-17T04:57:52+09:00</published> 
    <updated>2009-08-17T04:57:52+09:00</updated> 
    <category term="奇縁の連人" label="奇縁の連人" />
    <title>１３</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「つまり、帰る場所があったはずなのに、どこだかわからないと」<br />
　事情を聞き出してみるとそういうことらしい。<br />
「自分の名前すら覚えていなくて」<br />
「冴えない話……」<br />
　一週間程前に高塚と出会ったとき、この霊は迷子になっていたらしい。<br />
　よくよく霊査してみると、邪気どころか守護霊に近い霊波を持っているから、どこかで何かを護っていた霊なのではないだろうか。<br />
「この高塚さんって方はとてもいい人で。自分の身体を貸してやるから戻るべき場所を探してみろって」<br />
　綾子は、<br />
「そんなまさか！高塚くんってばすっごく怖がりで、霊とみると逃げまわってるような人なのよ！」<br />
　正直に言いなさい！と綾子はベテラン刑事のように机を叩いた。<br />
「本当です！すごく親身になって話を聞いてくれて！まあ、そうとう酔われているようでしたけど……」<br />
　悲鳴に近い声で霊が反論する。<br />
　酔った勢いで霊に身体を貸してやる人物とは……。<br />
「お前と気が合う訳だ」<br />
　直江がため息をつきながら言った。<br />
　綾子はどういう意味よ、といいながら更に霊を問い詰める。<br />
「それなのにのんきに陶芸なんかやってたの？」<br />
「この土をこねる感触が気に入って……」<br />
　みれば練り終わった土ばかりが並んでいる。<br />
「これをやっていると、何かを思い出せそうな気がして」<br />
　それでここ数日間、ずっと作陶室にこもっているそうだ。<br />
「つくづく冴えないわ……」<br />
　霊齢は若い。十数年程度だろうか。<br />
「どうしても帰らなきゃ、って思うんです。でも、それがどこだかわからなくて……っ」<br />
　苦しげな声で言う。初めて表情らしい表情を浮かべた。ぼんやりはしていても彼なりに焦りはあるらしい。<br />
　とりあえず、三人は部屋の隅に移って作戦を練った。<br />
「《調伏》はできないわよねえ」<br />
「そうだな」<br />
　迷子の守護霊などあまり聞いたことがない。<br />
　でも放っておいたら、高塚は一生憑依されたままだ。<br />
「どーすんだよ」<br />
「記憶がないというのなら退行催眠という手もありますが」<br />
　長秀だけでなく、直江や綾子も暗示を使えない訳ではないが、得体の知れない霊だし、何が起こるかわからない。下手に手を出したくない。<br />
　他にもいくつか方法を挙げる直江の話を聞いていて、綾子はだんだん面倒くさいといった表情になってきた。<br />
「ま、高塚くんなら１、２ヶ月憑かれてたってへたるような人じゃないし、自分で思い出すのを気長に待ってみましょ。私も元の居場所を探す手伝いくらいならしてあげたっていいわよ」<br />
「どうやって？」<br />
「覚えてることを手がかりにしてなんとか……？」<br />
　うさんくさそうな顔で聞いていた高耶が、急に無言になって手をかざし、綾子を制した。<br />
　入り口の方を見ている。<br />
「誰かいる」<br />
　直江も同じ方へ視線を向けていた。<br />
「ええ。どうやら尾けられていたようですね」<br />
　少し高耶を庇うようにして立つ。<br />
「いい加減出てきたらどうだ」<br />
　声をかけると、数秒して若い男が現れた。見覚えのある人物だ。<br />
「お前は……」<br />
　パン屋でみかけた憑依霊が、そこに立っていた。<br />
「君達は、何者なんだ？幽霊相手に、一体何をしている？」<br />
　話を全て聞かれていたらしい。先程は急に向けた警戒心に思わず逃げ出してしまっただけだったのだろう。今のやりとりを聞いて、直江たちがどういうつもりなのか、察しがついたようだ。<br />
「俺たちはこの世に残ってしまった霊たちの助けになりたいと思っている者だ。君も何かがあって他人の身体に取り憑いているんだろう？何なら事情を話してみたらどうだ」<br />
　暫く迷っていたその霊は、直江の眼を睨み付けながら口を開いた。<br />
「復讐がしたいんだ。手伝って欲しい」<br />
　その声には、深い憎しみが込められていた。]]> 
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